「ヲタク」にとって韓国映画とは、韓国語学習の貴重な教材でもある。
今回は、ここ1か月ほどの韓国映画鑑賞の中で出会った印象深い韓国語
表現を三つだけ記録しておく。
〇우향우(右向右)
例えば、映画「青年警察」(2017年)で、警察大学の集団訓練の
場面で出てきた号令。
今さら驚くようなことでもないのかもしれないが、韓国の集団訓練
でも、「右向け右」は「우향우(右向右)」、「左向け左」は
「좌향좌(左向左)」。
近代日本語式の漢字使用法は、かくも深く、そして広範に現代韓国語の
中に生きているのである。
〇일없다
最近の韓国映画には、役柄として北朝鮮出身者や北朝鮮の住民もよく
登場する。
どうやら、北朝鮮では、韓国語で言う「괜찮다」(大丈夫)を
「일없다」と表現しているようだ。
北朝鮮では、「主席」(議長)や「首領」(最高指導者)、「領導者」
(指導者)のように、現代中国式の漢字表現が多く使われている
ことは知っているが、この「일없다」も中国語の「没事」(大丈夫)に
影響を受けた表現なのかもしれない。
〇독고다이
日本語の「特攻隊」に由来すると考えられている「독고다이」
(トッコダイ)なる俗語が、映画にはしばしば登場する。
(※「アジョシ」「弁護人」「裏切りの陰謀」など)
「一匹狼」くらいを意味する俗語だ。
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以下は、例によって最近、鑑賞した映画のリストである。
■파괴된 사나이 「破壊された男」 2010年 〇〇〇--
元牧師の主人公が、サイコパスに誘拐された娘を8年ぶりに取り戻す
サスペンス映画。
サイコパスが、車に同乗させた主人公の娘を転校生だと偽り、言葉
巧みに登下校中の少女を車に誘い込み、誘拐殺人を重ねて行く手法には、
映画ながら、身の毛がよだった。
■검사외전 「華麗なるリベンジ」 2015年 〇〇〇--
大型開発事業をめぐる政官財癒着の闇に迫ろうとした主人公の
検事が、無実の罪を着せられ刑務所へ。
主人公は、刑務所を拠点に、自らを陥(おとしい)れた先輩検事への
反撃を開始し、5年間をかけリベンジを成し遂げる。
おもしろい映画であった。
■베테랑 「ベテラン」 2015年 〇〇
主人公のベテラン刑事らが、財力と権力に庇護され、横暴の限りを
尽くす財閥3世を追いつめ、ついには手錠をかける。
■7번방의 선물 「7番房の奇跡」 2013年 〇〇
非常に理不尽で残酷なストーリーが展開される映画である。
コメディータッチのノワール作品と言ってもよいのかもしれない。
知的障害(アスペルガー)を持つ「天使のような」主人公が無実の
罪を着せられ、受刑者仲間や刑務官までもが彼の無実を確信し、
応援する中、死刑が執行される。
主人公の娘にまつわる心温まる奇跡のエピソードが展開されは
するが、それで主人公の理不尽な死が帳消しになるわけでもない。
何とも後味の悪い映画であった。
■공동경비구역(JSA) 「共同警備区域」 2000年 〇
いくら映画とは言え、韓国と北朝鮮の最前線の兵士同士が人間的な
交流を持ち、友情が生まれるという設定自体が不自然過ぎる。
この映画からは、その不自然さを突き抜けるような真実味も全く
感じられず、物語りの展開に、終始、白々しい違和感が付きまとった。
■청년경찰(青年警察)「ミッドナイト・ランナー」2017年 〇
警察大学の学生2人が、朝鮮族の卵子密売組織に拉致、監禁された
家出少女たちを救い出すアクションコメディー。
この映画では、ソウルの朝鮮族(チャイナ)タウンが実名で登場する
上に、まるで悪の巣窟のような描かれ方をしている。
朝鮮族の市民団体が抗議の声を上げたのも無理はない。
■군함도 「軍艦島」 2017年 -
太平洋戦争末期の軍艦島(長崎・端島炭鉱)を舞台にした「歴史」
アクション映画。軍艦島のユネスコ世界遺産登録をめぐる問題に
触発され制作された映画だ。
所長やその手先の親日派は、戦争終結後、自分たちの戦争犯罪が
明るみに出ることを恐れ、生き証人となる朝鮮人徴用工や朝鮮人
慰安婦ら400人余りを坑道で皆殺しにする計画を立てる。
しかし、光復軍の独立運動家や主人公の活躍により、朝鮮人たちは
大虐殺の危機を脱し、石炭運搬船に乗り込み、軍艦島からの集団
脱出に成功する。
配給会社の大々的キャンペーンのわりに観客動員が伸びなかった
(2017年観客動員第5位)最大の理由は、歴史を題材にしつつも、
全くリアリティーに欠けた物語りの展開にあったのではなかろうか。
(終わり)