2018年冬のプサン訪問では、自慢のNikonとスマホ(iPhone7plus)
の2台のカメラで写真を撮影してきた。
スマホのカメラ(無音)は、画質は格段に落ちるが、大きな
カメラでは気恥ずかしくて撮りにくいシーンを撮るのに適している。
この2台態勢で臨めば、撮りたいシーンは大概撮れるのだが、例に
よって、「ヲタク」の脳裏に強烈な印象を残したシーンは、今回も
また、カメラなどに収めることはできなかった。
例えば、その一つは、日中だというのに、プサン駅前の大通りに
面したオフィスビルの入口前で、死んだように寝ていた人。
冬とは言え、昼間の陽光が暖かい日だったので、日向なら
そう寒くはなかったはずだが、その人の周辺に漂う絶望感は
あまりにも重かった。
そして、もう一つが、ある日の夕暮れ時、草梁小学校前の坂道を
下っていた時にすれ違ったロシア人の幼女2人。一生懸命に
ロシア語でおしゃべりをしながら歩いていた。
なぜ、こんなところを西洋人形のように色の白い金髪の幼女が、
しかも2人っきりで歩いているのか?
非現実的、いや幻想的とさえ言ってよい風景だった。
この2つのシーンばかりは、引き返して、写真を撮る覚悟を持て
なかった。
ただ、一方で、スマホカメラのおかげで、ぎりぎり撮れたシーンも
あるにはあった。
ある夜の南浦洞でのこと。映画が始まるまでの時間をつぶすため、
久しぶりに人込みの中を歩いていた時の話だ。
南浦洞では、多くの店や屋台で様々な種類の食べ物が売られている。
まるでお祭りのような華やいだ風景の中、「ヲタク」の近くを
歩きながら串物を食べていた青年が、食べ終わった串をポイと
歩道脇に投げ捨てる様子が目に入った。
捨てられた串につられ、視線を明るい方から暗い歩道脇に移すと、
そこには各種のゴミが散乱していた。
ゴミ箱のない南浦洞では、歩道脇の暗がりがゴミ捨て場と化す。
「ヲタク」は、南浦洞の光と影を見る思いがして、歩を止め、その
無残なシーンをスマホのカメラに収めた。
2、3人の通行人から不思議そうな視線を投げかけられた気は
したが、そこは無音カメラ。シャッター音がしないので、撮影後、
何事もなかったような顔をして、また歩き始めれば終わりだ。
街の恥部をこそっと撮影する、という意味では一種の盗撮には
違いないが、違法性はない。
(終わり)
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南浦洞の光と影
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